平成22年度の中央研修会に、新しい運動理論提唱されているプライマリーモーション指導者協会の会長、池上信三氏より講話を頂きました。数多くのスポーツに関わってきたが、弓道は初めてとのことでした。その為、弓道の概要を説明する為に、前日ホテルでお会いいたしました。1時間の予定が共感しあい、4時間になってしまいました。
ゴム筋肉でバネ動作
初対面の私の前で挨拶をされるとすぐ、池上氏は床の上でピョンピョンとハネられ、唖然としている私に「岡崎さんも出来ますね」と尋ねられたので、当然「はい」と答えました。すると「それでは他人にその飛び方をどう説明して指導されますか」と再度尋ねられました。考えて飛ぶような事でもありませんので、私は返事にとまどっておりました。「膝を曲げて伸ばしてと言ってしまいませんか」と言われ「まあ・・・そうでしょうね」と答えたら、池上氏からは「それではロボットのような動きになるでしょう。そういう指導が多く見られるが、それば運動音痴にする指導ですよ」との答えでした。つまり意識的に行なっていない事も、言葉にすると違って伝わるという事です。
自分を振り返ってみて愕然としました。聞いた方は言葉通りにします。一部の筋肉を使うとギクシャクした動きになります。指導される一流の方は、そんな事意識してやってはおりません。 弓手・妻手の手の内は動かさず無視して左右にただ広げ(伸合い)開放する丈けが良いと言っている私でもやはり肩がどうの胸が又肘が等と余計なことを言ってしまう事があります。「アレッ私も言っている時がある」と口から言葉が出てしまいました。ピョンピョンとハネるのはゴムまりを突くような事です。伸びて縮んでという動きを繰り返しているだけです。だからスムーズにリズミカルに飛び続けることが出来るのです。「すべてのスポーツは体をゴムまりの様に使って曲げたり捻ったりして、その反動のバネで動作をしているのですよ」と言われました。つまり、意識的に行なっていない事も、言葉にすると違って伝わるという事です。
なる程そうだ。弓道は武道という精神面と射術という運動面から成り立っています。スポーツ(運動)性からいえば他のスポーツと同じ、弓だけが特別な筈はありません。今まで上手く説明がつかず理解してもらえず悩んでおりました。これは分かりやすく、シンプルに説明が付くと目から鱗が落ちた気持ちでした。野球やテニス、ゴルフ、フィギュアスケート等全てのスポーツは体を反対に捩ったり曲げたりして、戻る反動をスムーズに利用して動作をおこします。柔らかいバネ、強いバネ、これらをなめらかに組み合わせ、合理的な動作に作り上げる事が大切です。武道という精神面は不変的要素がありますが、射術という運動面は技術革新なくしては退化し、取り残されます。
運動面は当然ですが芸術面でも歌舞伎等の芸能面でも師について習うが、その上に本人独自の世界を作り上げます。それが進歩でしょう。守破離の心が大切です。弓道の世界も、イノベーションなくして社会から求められる弓道人を育てるような事はできません。弓界の既成概念や経験則を無視するのではなく、ただ縛られる事なく脱却し、新しい息吹が求められます。
話の要点として二つありました。 一つ目は、一流アスリートと二流、三流の違いを分析、比較研究した結果、無駄のないスムーズな流れをいかにしているかに、尽きるとの事でした。下手な選手の動きは必ずギクシャクした節のある動きがあるという事です。その大きな原因は一部の筋肉を働かせて動作をしようとするからです。 二つ目は、ある一部の筋肉を働かせて動作をする、特に体の末端、手足の指先等を働かせて行動する事は良くありません。それは動作中の体に感じる感覚を極端に低下させるからです。 指先で用具をこね回すスポーツはありません。ゴルフや野球など、他のスポーツでも最適な用具の持ち方をして腕を振ります。その腕は体全体の曲げや捻りの戻る反動、バネ動作で腕が振られます。
この二点の要点は、弓道も射術の面では、すべてのスポーツが共通し合っている様に、弓にも共通するはずとおもっています。狭い弓道界の既成概念から離れ弓道に置きかえてみました。スムーズな射の運行で、にごりない鋭い離れにて一文字の大離れを生むにはどのようにする事が理に合っているかという事です。
骨格・感性を大切に
手の内・取懸けは、力を入れず整え、その形を保持することにつとめます。それを体全体のリズムでなめらかに引分けます。伸合いの極限の会から残身に戻れば良い事です。一部の筋肉を、なるべく使わない事が、大前提です。 形をなぞる引分けは一部の筋肉を働かせたり動かしたりして型に押さえ込む事になります。弓手の手の内を動かしたり、また、弓手の肩を押し込んだり、右肘を後に引き回したり、又、妻手の指先を開いたりハネ上げたりする事は、特別な筋肉を、意識的に使う事であり、スムーズなバネ動作にならず、ギクシャクな動きの原因となります。
十文字に両腕を広げた残身の姿のご自分を、ゴム人形とイメージされたらいかがでしょうか。それを弓の力で妻手が折り曲げられた姿が会と想定します。当然戻ろうとするバネが働いております。その状態から離れが生じたら、パチンとその十文字の残身の姿に勝手に戻るでしょう。ゆるんだり、上に弧を描くような色の付いた動作は生まれません。
余計な動作を仕掛けるから色の付いた動きを自ら作ることになります。
残身に戻るバネの先端に、手の内と取懸けが、付いていると考えると良いでしょう。手の内は大三より引分けの運行に従い、手の内に弓が巻き付いて来ます。巻き付いたままその形を保持して余計なことは一切しない。妻手は取懸けた拇指に、中指や薬指を軽く添えます。弦に任せて引っ張られた状態を保持する。手先を保持し、特定の筋肉を働かせず、全体のバネで、残身に戻れば、スムーズで色の付かない動作が生まれます。普通は手の内はこう働かせて肘はこのように、肩甲骨はこのように等と指導を受けることが多くあります。弽は拇指を反らして弾くなど、色々と仕掛けるやり方が多く見られるのが、一般的な弓道の指導です。これは一本一本の違いを体に感じられる感度は、極端に低下している状態だと言うことです。
しかし前者の場合は感度は敏感になります。問題は矢所の乱れがその違いを正確に射手の体に感じ取れるかにあります。それが重要なのです。指先を使う方は、同じ様に引いていると感じるのに、矢が色々な方向に飛びます。色々な方向に飛んだ矢所と、体に感じる一本一本の違いを、正確に感じ取れれば良いのです。感じ取れれば、中るように脳は修正してまいります。感じ取れなければ、修正のしようがなく、脳は混乱します。不合理でも、矢数をかけ、射を固めれば誤差が少なくなるだろうと、練習に励む事になります。器用な方は良いが不器用な方は上手くなれず苦労されます。
あまり形にこだわり過ぎますと、迷路に入り込んでしまいます。セオリーと自分の骨格や、特に感性との調和が一番大切です。他のスポーツでも一流プレーヤーは同じホームではありません。同じ理論のやり方であっても、各自の骨格や感性に合わせて自分のものを作りあげるからです。どんな射形でも良いと言うのではなく、型に押し込んではなりません。あまり小細工せずに、シンプルに引く事が一番です。自分の中に固定観念がないだろうか疑って見る事も大切です。私は自分の考えに対して何時も疑い続ける事を旨としています。それが技術革新の基本と思います。
弓術は弓・矢・?・体が一体となって出来上がっている飛び道具です。体は飛び道具の土台となります。
一部に偏った筋肉を使ったり、特に手足の末端である指先を使ったりした場合、体に感じる感覚が極端に低下すると聞いたとき、アッと思いました。飛び道具としての土台の役割の体は、脳によって動かされている筈だ。脳の学習メカニズムに継がるのではないかと気が付きました。その学習メカニズムを無視しては良い結果は生まれません。
脳内の個々の神経細胞には長年体験し得た情報が数多く入っております。目的に合わせて情報の入った神経細胞を選び出し、最良の組み合わせる活動をして行動をとります。
良い結果で喜びを感じると大量のドーパミンが脳内で分泌され、その事により益々活発に新しく神経細胞との組み合わせ、つまり神経回路網が激しく活動して良い結果を生む組み合わせ回路を探します。
さらに良い結果が生まれると快感を体感してドーパミンが生まれ、さらにより良い組み合わせを探索します。新しく神経回路が生まれ、どんどん完成に向かって進歩します。ドーパミンは大量に分泌される程、強く快感や喜びを感じますので、快感を求めて癖になるものです。
この良い結果を生む学習サイクルに乗る事が得策でしょう。それには正しい情報を神経細胞に伝えなければなりません。脳に正しい情報が入らなければ脳は混乱するか動くことができません。つまりどうすれば良いか分からなくなることです。高い性能のコンピュータでも正しい情報を入力しなければ正しい結果を弾き出しません。
鉄砲でも一発一発バラバラな方向に飛ぶ鉄砲ではどの方向を向けて良いかわかりません。情報が得られないからです。弓に於いても同じ事が言えます。矢所の違いが少しでも正確に感覚として体に伝わる事が情報を得る根源なのです。感じ得る事が出来なければ正しく神経細胞に情報を伝えることが出来ません。正しい情報を得る事から上記の良い結果を生む学習脳内サイクルが生まれます。いかに末端を動かしたり、一部の筋肉を働かせたりしないことです。作為的動作で、体に感じとる、感覚の低下を招かないようにする事が大切だと言うことです。
私のスローガンは、弓は、明るく、楽しく、思いきり。その理由はドーパミンを生む環境つくりであり、やる気を起こさせる事が大切と思っているからです。
天の理・自然の理は万事に共通します。面白がって挑戦する。これがドーパミンを生む原点です。いきいきと、ときめきながら、笑顔で弓道人生をおくりましょう。
これからはあくまでも自論であり、皆様の疑問や射の組み立ての、参考になって、微笑が生まれたら幸いです。(動画で補足説明 動画制作者:島貫武彦)